

ヴァージニア州リッチモンド出身。D’Angelo や Lonnie Liston Smith といった重要人物を輩出してきたこの街から現れた5人組、Butcher Brown。彼らの NPR Tiny Desk Concert でのパフォーマンスは、まさに「音楽の坩堝(るつぼ)」と呼ぶにふさわしいものだった。どんなステージに立とうとも、常に全力投球——それが彼らの流儀だ。
Tiny Desk Concert という舞台
ジャズの話に入る前に、まず触れておきたいのが Tiny Desk Concert という存在だ。NPR(米国公共ラジオ)が手がけるこの象徴的な企画は、音楽そのものの本質を試される場所でもある。
制作総指揮の Bob Boilen のデスク裏、書類や本に囲まれた窮屈な空間。限られた音響環境の中で、照明やエフェクトといった装飾はすべて削ぎ落とされ、演奏者は“音”と“グルーヴ”だけで勝負しなければならない。そこにこそ、このシリーズ最大の魅力がある。
Butcher Brown の音楽的錬金術
Butcher Brown は自らの音楽を「Solar Music」と定義する。ジャズを軸に、ヒップホップ、ファンク、ソウル、ボサノヴァ、さらにはハウスまでを自在に横断するスタイルだ。
70年代ジャズのスピリットを深く宿しながら、現代的なビート感覚とシームレスに接続するその手腕は見事の一言。演奏から立ち上がるのは、熟練したマスターの余裕と、ストリート由来の洗練されたクールネスが同居するサウンドである。
夏の午後のようなライブ体験
Tiny Desk での幕開けを飾った〈No Way Around It〉は、ベースライン一発で空気を掌握する。気づけば首は自然と揺れ、体はリズムに身を委ねている。
その空気感は、まるでビーチで開かれる夏の午後のパーティー。リラックスしていながら、確かなエネルギーに満ちている。そして思わず浮かんでしまうのが “Stank Face”。あまりにもグルーヴィーで気持ちいい音楽に出会ったとき、顔が思わず歪み、心の中で「最高だ……」と叫んでしまう、あの表情だ。
ステージ全体は、丁寧に整備されたヴィンテージエンジンのように滑らかに回り続ける。ドラマー Corey Fonville の精密なシンコペーションと、キーボーディスト DJ Harrison の艶やかなシンセサウンドが有機的に絡み合う。
誰もが技巧を誇示できる実力を持ちながら、彼らが何より楽しんでいるのは、音を通した会話と呼吸の共有だ。本棚の前で五人の旧友が即興セッションに興じているかのような、温かさと熱量。そのグルーヴに、心も身体も自然と頷き、揺れ動いてしまう。
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