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音楽を超えて広がる体験──J-HipHopとファッションが交差する空間の魔法 《OJAZ Tour in Taipei》西原健一郎

2026.01.06

Music

曹瑋倫

曹瑋倫

西原健一郎——音楽プロデューサー、作曲家、ピアニスト、そしてDJ/セレクター。1996年より東京を拠点に活動を開始し、ファッションや都市文化と密接に結びついた表現を起点として、「都市の風景をキュレーションする」稀有な音楽家として独自の立ち位置を築いてきた。東京ファッションウィークやパリ・ファッションウィークをはじめ、エルメスのシャンパン・ポップアップやGINZA SIXなど、数多くのハイエンド・ブランドや空間に音楽/DJセレクションを提供してきた実績を持つ。

《OJAZ tour in Taipei》のステージに足を踏み入れると、そこにあるのは単なるグルーヴではなく、繊細で洗練された視点と都市の奥行きを湛えた、五感に訴えかける音楽体験である。

西原健一郎の作品は、Jazz、Hip Hop、Soul、Electronica、Houseを自然に溶け合わせ、きめ細やかな質感を持つ独自のサウンドを形成している。Boom bap、Latin、Discoといったリズムを自在に行き交いながら、和声にはジャズ特有の自由な可変性が宿る。旋律には、日本人音楽家ならではの物語性が静かに流れ込み、内省的でありながら強い余韻と浸透力を放つ。

その才能は「音楽家」という枠に留まらない。自身が主宰するレーベル〈Jazcrafts〉を通じて、自作のみならず多様なアーティストの作品を発信し、西原健一郎の音楽観、ひいては“音楽宇宙”をリスナーに提示してきた。またファッションウィークのセレクターとして、空間やファッション文化を主軸に、音楽をブランド美学を伝達するためのメディアとして機能させてきた。ファッションの現場において音楽は脇役でありながら、その在り方は彼の音楽的バックグラウンドと驚くほど共鳴している。

1990年代に遡ると、日本では「Japanese Jazz Hip-hop」と呼ばれる独自の潮流が形成されていった。アメリカのヒップホップ文化を吸収しつつ、ローカルなジャズ、レコード文化、そして日本特有の都市生活のリズムと結びついたこのスタイルは、強いストリート性やイデオロギーを前面に押し出すアメリカ的文脈とは異なり、「雰囲気」や孤独、都市の空気感を重視した表現へと向かっていった。

西原健一郎は、その潮流を代表する存在の一人であり、Nujabes、DJ Krushといった巨匠たちと並び、世界中のリスナーに支持されてきた。2008年のデビュー作『Humming Jazz』はBillboard JAPANにてジャズ・アーティストとしてノミネートされ、その後の『LIFE』『Illuminus』『Jazzy Folklore』『Sincerely…』、そして2022年の『empath』に至るまで、国内外で深い共感を呼び続けている。

同様の響きは、台湾の音楽シーンにも見出すことができる。蛋堡(Soft Lipa)が2010年に発表したアルバム『月光』は、ジャズバンドJABBERLOOPとの共演によって、中国語ラップ史において高く評価される一枚となった。この作品に心を動かされたことがあるなら、西原健一郎のライブを見逃す理由はない。

今回のツアーにおける最大のハイライトは、ボーカルを務めるMichael Kanekoの存在だ。南カリフォルニア育ちの日本人音楽家である彼の音楽には、カリフォルニアの陽光と東京の都市的な繊細さが共存している。2015年のデビュー以降、4枚のアルバムを発表し、2022年には台湾のシンガーソングライター洪佩瑜との共作「嗨!我回來囉」、2025年にはYokkorioとのシングル「Blur」をリリース。磁力を帯びた、柔らかくシルキーなソウル・ヴォイスは、日本のクロスオーバー・シーンにおける重要な存在となっている。

西原健一郎率いる今回の編成には、サックスのDAISUKE、トランペットのMAKOTO(ともにJABBERLOOP)が参加。2025年11月にBillboard Live TAIPEIでの公演を終えたばかりの彼らが、再びステージに戻ってくる。さらにドラマーのKen Takahashi、そしてボーカルのMichael Kanekoが加わる。

《OJAZ tour in Taipei》——国境を越えたジャズ・ヒップホップを、西原健一郎が“策展”する夜が、まもなく台北に訪れる。

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