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菊池桃子と取り戻す昭和の情景——「青春のいじわる」からの脱皮と進化。

2026.03.08

Music

曹瑋倫

曹瑋倫

こだわり抜かれた衣装

幕開けを飾ったのは、1984年リリースの「Blind Curve」。かつての甘いアイドルのイメージを覆すように、菊池はピンクのドレスを纏って登場した。片側はレースのワンピース、もう片側はスラックスというそのデザインは、まるで「雌雄同体」を象徴しているかのようだ。可愛らしさの中にエネルギーを秘め、セクシーでありながら地に足がついたその姿は、現代女性のステートメントとも言えるだろう。外見に惑わされず、主流の価値観に縛られない自立した内面。この衣装を通じ、私たちは菊池桃子の新たな多面性を垣間見ることができた。都会的な「Blind Curve」の旋律に乗せて、防衛本能と受容への渇望が入り混じる2026年の菊池桃子が、そこにいた。

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菊池桃子とは何者か?

私たちが知る菊池桃子は、歌手であり、モデルであり、俳優である。もともとアイドル志望ではなかった彼女だが、その愛くるしい容姿からスカウトされ、1984年の映画『パンツの穴』でスクリーンデビュー。強烈なキャラクターで注目を集め、続くシングル「青春のいじわる」やアルバム『OCEAN SIDE』で一躍トップスターとなった。 その後、ロックバンド「RA MU」を結成しメインボーカルを務める。バンドと称しながらも、その実態はジャズ・フュージョンを基軸とした高度な音楽性を誇った。清純派アイドルとして出発しながらも、彼女は常に異なるアイデンティティを通じて「自分」を表現し続けてきたのだ。

「よろしく!」

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弾けるような笑顔で観客に挨拶した後、バンドの重厚なキメとともに「Ocean Side」が始まった。ピンクのドレスがリズムに合わせてきらめき、軽やかなステップが会場の温度を上げていく。透明な海辺を連想させる開放感から一転、「Tomorrow」の静かなエレピの音が響くと、スポットライトを浴びた彼女は映画のヒロインへと変貌した。夏の午後から都会の孤独な片隅へ。観客席からは、記憶が呼び起こされたことによる感動の啜り泣きが聞こえてきた。

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彼女はステージの前方に跪き、観客と同じ目線に立った。かつてテレビの中でしか見られなかったアイコンが目の前にいる。その光り輝く笑顔と温かな照明が共鳴し、繊細な歌声が空気に溶けていく瞬間……それはまるで映画のようにマジカルな光景だった。

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「SUMMER EYES」の躍動的なリズムが、しっとりとした空気を塗り替えていく。ドラマチックでありながら煽情的すぎず、タイトなロックビートが孤独な涙を明るい宣言へと変えていく。菊池を支えるバンドもまた、劇的なジャンルの切り替えに対応するプロフェッショナルな演奏を見せつけた。

黄金時代の響き——City Popとしての菊池桃子

「OCEAN SIDE」で歌われる「Aqua City」とは、彼女のサウンド・プロデューサーである林哲司が手掛けた杉山清貴&オメガトライブの代表作だ。夏、ビーチ、都会。これらはCity Popを構成する不可欠な要素であり、バブル前夜の80年代日本社会が音楽を通じて描き出した感情の世界である。 80年代に日本に渡ったAOR(Adult Oriented Rock)は、日本独自の解釈を経てCity Popへと昇華された。精緻なアレンジ、洗練されたメロディ、夜のネオンに似合う都会的なサウンド。それは自由な恋愛の情熱と内省を完璧に表現している。

PEACHFUL = Peach + Peaceful

「今回のライブタイトルは“Peachful Days Extra”です。桃子(Momoko)という名前には桃の意味があって、台湾の皆さんも桃が好きだと聞きました!」

菊池がこのようなテーマを選んだのは、この混乱した時代に応えるためだと思います。年齢を問わず、どの世代のファンも「平穏」から恩恵を受けられるでしょう。それこそが、アーティストとしての最良の贈り物ではないでしょうか。そしてステージの上ではファンの感情を支える存在となっています。菊池桃子は社会に愛を持ち、自らの能力を活かして人々のために尽くす人であり、非常に善良な魂の持ち主だと想像できます。

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「アン・ドゥ・トロワ!」という「夏色片想い」の掛け声とともに、彼女は観客へ親指を立ててグッドサインを送る。かつての清純で透明感あふれるイメージを再現しつつ、「Broken sunset」ではニューウェイヴ的な響きをよりロックなサウンドへとアレンジ。KissやBee Geesを彷彿とさせる力強い演奏と、彼女の優しい歌声のコントラストが、感情の機微をより鮮明に描き出した。

疲れを見せず、彼女は「Boyのテーマ」でステージの両端を駆け巡り、ファンと握手を交わす。彼女は決して遠い存在のアイドルではない。世界を、そして目の前の人々を慈しむ「菊池桃子」そのものなのだ。ワルツのリズムが心地よい「ドリーム・ボートが出る夜に」では、観客が一体となって手を振り、会場は温かな最高潮に達した。

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2回の公演を続けて行ったにもかかわらず、菊池桃子はまったく疲れを見せず、観客もすでに菊池の音楽の世界に引き込まれていた。〈Boy のテーマ〉はシンセサイザーのイントロで始まり、この曲は印象的なシンセのメインメロディーとミドルテンポのビート、豊かなセクションの展開が特徴で、何度も心の中のBoyを呼び起こす。音楽に合わせて揺れるドレスはきらきらと輝き、菊池は時折ステージの両側に行ってファンと交流し、観客と握手をして親しみやすい魅力を見せた。彼女は決して高いところにいるアイドルではなく、芸能界での訓練を経てもなお、世界を気にかけ、目の前の人々を思いやる菊池桃子のままである。〈ドリーム・ボートが出る夜に〉はまるで子守歌のような三拍子のゆったりとしたワルツで、観客たちは次々と手を挙げて菊池に声援を送り、会場の雰囲気は最も温かいクライマックスへと導かれた。

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「皆さんが一緒に手を振ってくれて、本当にきれいでした。本当にありがとうございます。」と菊池は語った。すべての人のステージ上の動きが菊池桃子のように滑らかというわけではない。音楽性や感情の起伏に合わせて、ひとつひとつの視線やダンスは丁寧に磨き上げられているが、同時にとても自然体なスタイルでもあり、多くの音楽ファンの共感を得ている。

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「私は本当に一生懸命ここまで歩んできました。本当に皆さんに感謝しています。皆さんがどれほど優しいまなざしで私を見つめてくださっているのか、本当に皆さんの熱い気持ちを感じました。」

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「……これから皆さんにお届けするこの曲は、ライブでしか歌わない曲です。この曲はCDにも収録されておらず、インターネットでも聴くことができません。これはSunset、夕焼けについての歌です。私がライブでとても大切に歌っている曲です。お聴きください。『紅のシルエット』。」

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よく音楽は言語を超えたコミュニケーションだと言われますが、この曲をあえて言葉で表現するなら……この曲はまるでファンとの小さな秘密のような存在です。他の楽曲と比べて、この曲に込められているのはとても純真な感情で、純粋に人を励ます歌です。楽曲の構成から旋律にあふれる感情まで、すべてがとても純粋な友情を感じさせます。本当にその魅力を体験するには、やはり実際に会場へ来るしかないでしょう!ファンの皆さん、ぜひ自分のアイドルに直接会う機会を逃さないでください。自分のアイドルと秘密を共有しているような感覚はとても楽しいですよ(笑)。

「さよならと言うのは寂しいですが、まだ最後の2曲が残っています!最後まで一緒に楽しみましょう!」と菊池桃子は名残惜しそうな表情で語り、観客たちも拍手と歓声で応えた。

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〈Tokyo 野蛮人〉はバンド「RA MU」時代の楽曲である。冒頭は力強いロックのリフで始まり、イントロの後はグルーヴィーなセクションへと展開する。ディスコ風のバッキングボーカルは一人でありながらまるで合唱団のようで、裏拍から入るメロディーには新しい時代の女性の魅力があり、表情と楽曲のサウンドが互いに織り重なっていく。曲の中盤のハーフタイムのソロでは、ギターのファンク(funk)カッティングとソロがシンセサイザーと掛け合う。〈愛は心の仕事です〉は夢幻的なイントロで始まり、すぐにピアノ伴奏へと切り替わり、Clavinet と Singing Bowl の音色が用いられる。おそらく Stevie Wonder の「Superstition」に触発されたのだろう。観客たちは2拍目と4拍目で手拍子を打ち、ドラマーとともに力強く躍動するリズムを作り上げていた。「RA MU」時代の作品は菊池桃子のソロ時代よりも Disco や Funk の要素が強く、強烈なリズムから柔らかなセクションへと入ることで、より一層菊池桃子の多彩な魅力を際立たせている。

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アンコール前のトークで、菊池は感動的な言葉を語った。

「最近は大人になりました。私の二人の子どもももう大人になりました!皆さんの国でもきっと同じだと思いますが、子どもがまだ小さい時は、お母さんという役割になると、100%子どもの世話に時間を注ぐことになります!今はようやく自分のことをする時間ができて、本当に良かったです!」

「今まだ力があるうちに、たくさん歌いたいと思います!最後の2曲、ぜひ皆さん一緒に過ごしてください!」

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〈青山 Killer 物語〉に続き、2曲目のアンコール〈Say Yes!〉では、合間を縫って皆に感謝を伝え、近い距離で交流した。ステージの両側から前列の観客まで、一生歌い続けてきた歌手であっても、舞台と自分を支えてくれるファンをとても大切にしている。熱血で高揚感のある楽曲でありながら、その歌声によって心を打たれ、思わず涙がこぼれるほどだった。多くの熱心なファンがレコードやアナログ盤、あるいは自分の応援グッズを持っており、それらはすべて大切に保管されてきた品々である。彼らは日常生活へと戻りながらも、静かに自分の好きなアーティストを支え続けている。公演が終わる頃、皆が満足そうな笑顔で帰路につき、この特別な一日を締めくくった。

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