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小袋成彬を定義するなら、「定義不可能」こそが最も相応しいラベルかもしれません。

2018年、日本が誇る歌姫・宇多田ヒカルの強い推薦を受け、プロデュースを手がけた『分離派の夏』で音楽シーンに大きな話題を呼びました。その後、彼はロンドンへ移住し6年間を過ごします。ヨーロッパ最前線の音楽実験場に身を置き、極めて繊細なR&BからDubやJazzを融合させた深みのあるレイヤーまで、その進化が止まることはありませんでした。

帰国後、小袋成彬は予想外の形で地元・さいたま市長選に出馬し、社会への関心と人間的成長を実践。常に殻を破り、真実を追い求めるアーティストが、ついに2月7日、Billboard Live TAIPEIのステージに初めて立ちます。

来台を前に、今回は4人のコアなリスナーを招き、それぞれの視点から「必聴の3曲」を推薦してもらいました。録音音源を一切使わない「完全生演奏」のパフォーマンスを体験する前に、彼らの耳を通じて、疎外感と優しさが共存し、日本的でありながら国際的な小袋成彬の音楽世界へ足を踏み入れてみましょう。

推薦人 1:東京音楽敗家日記(音楽乱聴家 / 通風屋唱片オーナー)

〈Zatto〉

冒頭の力強いドラムの打ち込みが大好きで、そこから楽器と歌声が徐々に浮かび上がっていく展開は、非常に耳を惹きつけます。全体として、もしこれがファッションショーの音楽だとしたら、モデルたちが一変して力強くオーラのある歩き出しを見せるような、そんな光景を想像させます。

〈Shiranami〉

この曲は宿命的な引力を感じさせ、メロディには今自分がどこにいるのか分からないような異国情緒があります。特に小袋成彬の第一声が溢れ出した瞬間、全身に電流が走るような痺れる感覚があり、中盤のエレキギターとトランペットの絡み合いも最高に素晴らしいです。

〈Hanazakari〉

アルバム全体ですでにジャズやブルースなどの要素が非常に成熟した形で調和されていますが、この曲ではレゲエのリズムへと転換しており、それでもなお聴き手の心をしっかりと掴んでいます。

  • 推薦コメント: 庭園を隙なく整えるような緻密な技巧と、花々をありのままに咲かせる魔法、その両方を兼ね備えている。

推薦人 2:Hitomi Xu(作家)

〈Summer Reminds Me〉

2018年のアルバム『分離派の夏』に収録。この曲は私にとって小袋成彬への入門編です。音色、編曲、メロディにおいて、彼はこのバリエーション豊かなアルバムの中で、18年当時のJ-POPらしいトレンドのサウンドを作りつつ、密度の高いシンセの音層を敷き詰めることで、決して聴き飽きることのない(油っこくない)サウンドに仕上げています。

〈Shiranami〉(白波)

最新アルバム『ZATTO』に収録。R&BにDubを融合させ、さらにジャズピアノのエッセンスを忍ばせています。歌詞や歌い回しには演歌のようなノスタルジーが漂い、暗に戦争や歴史の巡り合わせを示唆する歌詞からは、今作で時事的なテーマに向き合おうとする彼の意図が伺えます。料理に例えるなら「日本のクリームシチューとジャマイカのジャークチキン」。半分はとても柔らかく、半分はとてもスパイシー。その二つが組み合わさっても全く違和感がないのは、『ZATTO』のミキシングが完璧であり、どんな細部も逃さず捉えているからだと思います。

〈Strides - Seiji Ono Remix〉

2022年のアルバム『Strides』にはリミックス盤が存在し、小袋氏が敬愛するアーティストたちに収録曲を再構築してもらっています。このリミックスは彼の音楽的嗜好や好みをより深く反映しており、長年のロンドン生活で受けたUKジャズからの影響も見て取れます。特にお気に入りはプロデューサー・Seiji Ono氏による同名曲のリミックス。キーボードの音色がとにかく素晴らしいです。

  • 推薦コメント: ロンドンにはヨーロッパで一番の日本スーパーがあり、そこでは納豆や鏡餅、ラムネが時に本国以上に充実し、大切に陳列されているという伝説があります。小袋さんの音楽の第一印象は、まさにそのロンドンの日本スーパーのように、"Well-prepared" でありながら、新鮮な感覚なのです。

推薦人 3:Ting(モデル)

〈Rally〉

2021年リリースのアルバム『Strides』に収録。前作『分離派の夏』や『Piercing』とは明らかに異なるスタイルで、音への実験精神と遊び心がより色濃く反映されています。宇多田ヒカル氏との共作詞であり、作曲にはAru-2氏も参加。規則的な重低音から始まり、パーカッション、ギター、シンセベース、ドラムの出し入れが絶妙に絡み合い、思わず身体が動き出します。特に、ラストに引用されたフランスのラリードライバー、ミシェル・ムートンとスー・ベイカーの対話のサンプリングが最高です。

〈New Kids〉

2019年の2ndアルバム『Piercing』より、ニューヨークのミュージシャンKenn Igbiとのコラボ曲。軽快なピアノにのせて、Kenn Igbiが少し寂しげな英語の歌詞を歌う中、突如として放たれる「待って」という日本語の一言。それが「西洋」という殻を鮮やかに突き破ります。会話とハミングが交差し、曲が終わるかと思った瞬間に再び現れるオートチューンのボーカルミックスは、聴き手を翻弄します(最高の褒め言葉です!)。

〈HANAZAKARI〉(花盛り)

最新アルバム『ZATTO』のラストトラック。冒頭の濃厚なレゲエのリズムは、一見アンニュイでありながら生命の謳歌と儚さを歌い上げています。アルバムの幕開けを飾る「ZATTO」から始まり、この「花盛り」で幕を閉じる構成は、現実世界での独白や感嘆をそのまま形にしたかのよう。「物の哀れ(mono-no-aware)」の美学を見事に体現しており、このような聴覚的な衝突こそが、小袋成彬の作品の魅力なのだと感じます。

  • 推薦コメント: 高級音楽遊び人であり、ディテールの鬼。

推薦人 4:Sogare(映像監督)

〈門出〉

人生の長い長い夏の終わりが、一曲につまっている。「それぞれ何も言えないまま、巡り巡る人生のドラマ」。ポップスからジャジーなサウンドまで、日本からロンドンまで。様々な地を飛び回る小袋から学んだのは、”それでも言い方は色々ある”。今日は音楽じゃなくて、選挙に出たっていい。聞き取れないほど速く打たれたハイハットに載った遅めのフロウにとどまっていたいような、そんな夏の一曲は永遠に、夏の空の風景とともに、記憶に刻まれたままだ。

〈Gaia〉

5lackとの一曲。「門出」が“長い夏の終わり”をひと息で飲み干す曲だとしたら、「Gaia」は、その飲み干したあとの喉に残る微熱だ。低音はただ鳴っているんじゃなくて、重力みたいにこちらの姿勢を変える。「言えないこと増えていく当然 それを昨日ぐらいに知った俺」。乾いたスネアを通して地面を確かめ、最後のラップで締める、感じすぎてはいい意味で疲れてしまう一曲だ。

〈New Kids

「待って なんか今日空が青くね?」、2019年の東京を思い出すような切なさに歯がゆさを感じているのは、変わらない”今もどこかで生まれてる”に今でも共感することができるということ。「ただ 黙って 周りより未来を見ていたい気分で」。話したり、話さなかったり、トラック表現に落とし込んだり、こんなアルバムが残っていたり。1リスナーとして、コロナ前のあの時代の中で、Piercingは思い入れの深いアルバムです。

  • 推薦コメント: 平成に生きた小袋が絶望よりも変化に期待を寄せ、メジャーデビューの道を抜けてロンドンへと、そして「さいたま市長選」を”走りっぱなしで”終えた彼が、2026年の初頭に台湾でどんな音の語り口を見せてくれるのか。それとも「今から踊ろうよ 夜通しで」なのか。雑踏でも、分離派でも、そのどれもが小袋成彬。近距離で感じれるBillboard Live TAIPEIで、是非どうぞ。

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